浅倉秋成 『失恋覚悟のラウンドアバウト』 (講談社)

失恋覚悟のラウンドアバウト

失恋覚悟のラウンドアバウト

――特定保健用食品――
「あ、あの……ごめんなさい」あたしはたまらず博士に声をかける。「な、なんでこの拳銃『トクホ』なんですか?」
「ん……あぁ、それか」博士は小さく頷く。「本物の拳銃と見分けがつかなくなると困るからね、遊び心でロゴマークを入れておいたんだ」
「……いや、にしたって、他にいくらでもやりようがありそうな」
「摂取し続けると体にいい影響がありそうな感じで、なかなか魅力的だろう?」

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北関東と南東北の間あたりにある日の下町.この町で起こった,いくつかのちょっとした恋と嘘と諍いが,やがて町全体を巻き込む大きな渦になってゆく.時系列の重なりあう五つの連作短編と,その五つの集大成となる短編からなるドタバタ群像劇(?).どこかトンチンカンなひとびとの恋のすれ違いや,トンチンカンなアイテムが,軽妙なテキストでユーモアたっぷりに語られる.個々の短編は,舞台がひとつの町ということもあって『それでも町は廻っている』の小説版みたいな感じ.全員集合のフィナーレとなる表題作「失恋覚悟のラウンドアバウトは想像してたよりだいぶおとなしかった.まあ「ラウンドアバウト」だから衝突したり事故ったら困るわけだけど.お気楽なコメディとして悪くないので,それこそ「それ町」が好きなひとならさっくり読んでみるのがいいかもしれない