海津ゆたか 『ヒイラギエイク』 (ガガガ文庫)

ヒイラギエイク (ガガガ文庫)

ヒイラギエイク (ガガガ文庫)

「ヒイラギの垣根」
「うん? 突然になんのこと?」
「あれはね、ただの垣根じゃないの。ヒイラギの葉っぱってギザギザしているでしょ。あのギザギザは、よその人が村に入ってこないようにする魔除けなの。ヒイラギに守られながら村の人は村の中だけを見ているのよ。世界のどこかで何万人が死のうとも、隣の家の跡取りが誰になるかの方がよっぽど大事なの。そういうせせこましいところが嫌いなの」
「そうなんだ」
「そうなの」

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長野県玉川村.中学二年生の荻原出海は,叔父の住むこの村で夏休みを過ごすことになる.村で出会った同級生の四人の少女と賑やかな夏を送る夏はとても楽しいもので.
第10回小学館ライトノベル大賞優秀賞受賞作.花火,水泳,信州弁を話す白いワンピースの少女.ザ・夏というか,「完璧な夏の長野」といった風情のすこしふしぎ小説.と思いきや,「ひぐらしのなく頃に」のような不穏な雰囲気がじわじわと強くなり,そのうえさらに……という.いろいろな要素を詰め込んだ題材はとても魅力的なんだけど,どの要素も掘り下げと説明が足りない印象がある.結果的に,中途半端な中学生ハーレム小説になってしまっていた.ちょっと惜しいかな.それにしても,ハヤカワの『松本城、起つ』といい,今月は長野SFの月だな(こちらにも松本城が出てくるし,作者が長野県出身ということも共通している).