石川博品 『後宮楽園球場 ハレムリーグ・ベースボール 2』 (ダッシュエックス文庫)

香燻(カユク)は口を開けて空を見あげた。青い空に黒い球がどこまでも、雲雀のように天を指して飛んでいく。人の力でこんなことができようとは、とても信じられない。いつまでも落ちてこないボールに彼は時間を忘れた。いまいる場所も忘れた。いまここにある自分を忘れた。
ボールはこちらから遠ざかっていくというのに、遠ざかっている気がしない。むしろ、ともに飛んでいるような感覚がある。魂がそこにある。
センター回廊のはるか向こう、どこかの殿舎の奥の奥にボールが消えていって、はたと気づく。地上にあるグラウンドの形、定められた境界を基準に判定がくだされるものなのに、見る者はその軌跡の美しさからすでに確信してしまっている。
ホームランだ。

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白日(セリカ)帝国の後宮(ハレム)では今日も今日とて球音が響き渡る.上臈リーグに昇格するも,更衣の方針で出番がなかなか訪れない香燻(カユク)たちだったが,更衣の交代によって大きなチャンスが訪れる.
後宮野球小説第二巻.NPB,というより雰囲気的には日本プロ野球,のネタを,こんなにあれこれ詰め込んでくるとは思わなかった.誤解を恐れず言うと,後宮小説・ミーツ・なんJというか,きれいななんJ小説というか,そんな印象でさくさく読めるのが良い.近鉄パールスから統一球まで,小ネタもそこそこ拾えたと思う.しかし「頭がクルクルパグリアルーロ」ってなんだろう.
退廃的な妖しさと美しさを併せ持つ後宮と,俗っぽさと神話性を併せ持つ野球は実は食い合わせが良いのかもしれない(てきとう).単にネタを重ねただけに終わらず,バックグラウンドを感じさせるのはさすがの作者様だと思う.楽しゅうございました.