織守きょうや 『黒野葉月は鳥籠で眠らない』 (講談社)

黒野葉月は鳥籠で眠らない

黒野葉月は鳥籠で眠らない

「ただ、覚えておけばいいよ。絶対に欲しいものが決まっている人間が、どれだけ強くて、」
怖いものかを。

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26歳の新米弁護士・木村が関わることになった,表題作を含む四つの事件を描く連作短編.タイトルからはわかりにくいけど,エンターテイメントとリアルのバランスが取れた,良いリーガルミステリだと思う.ロンドン出身の現役弁護士兼業小説家という作者自身のプロフィールがいちばんリアリティが薄いという.
主人公と,第二の主役とも言える先輩のバックグラウンドがわずかにしか描かれず,大きな物語らしいものがないことと,登場人物が全員揃って非常に頭が良いのが特徴といえるかな.読むひとによって長所にも短所にもなりそうな,独特の雰囲気を持っている.後半のふたつの短編,「三橋春人は花束を捨てない」と,「小田切惣太は永遠を誓わない」が特に良かった.それぞれ,あるどんでん返しが用意されているのだけど,印象が正反対.「絶対に欲しいものが決まっている人間が,どれだけ強くて,怖いものか」という台詞が,この作品全体を貫くテーマ,というか物語だったのかもしれないね,ということを読み終わってから思ったことです.