冲方丁 『マルドゥック・アノニマス 1』 (ハヤカワ文庫JA)

「そうやって警察の機能がどんどん民営化していくことに私は反対なの。そのうち本当に、犯罪から守られるのは金持ちだけってことになりかねないから」
「正しい主張だ。ぜひ市長に言ってくれ」

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マルドゥック・スクランブル』から二年.バロットとウフコックはそれぞれ取り戻した新しい人生を送っていた.「殺さない,殺されない,殺させない」をモットーとするイースターズ・オフィスで,ウフコックは新たなパートナーと事件解決に勤しんでいた.ある日,内部告発者の保護依頼に応じて出向いたウフコックたちは,マルドゥック市の新たな脅威に出会う.
孤独なウフコックのガス室での回想から始まる,「価値ある死を獲得する物語」.どこまでいっても煮え切らないウフコックの不安がひしひしと伝わってくる.ゲームを強制させられて殺し合うエンハンサーたちの変態的能力だとか,いろいろ描いているようで,なんだかんだとウフコック視点の物語であることは揺るいでないのかな.あらゆる手でいじめ抜かれ,それでいながら煮え切らないウフコックの不安が物語の下地にあって,どうあっても目を逸らすことができなくなる.それこそ作中の「錆」のように心蝕まれるような.まあ,知人の一部が言っているようなコレジャナイ感はたしかにあるんだけどな.じっくり追いかけることにいたします.