岩城裕明 『三丁目の地獄工場』 (角川ホラー文庫)

三丁目の地獄工場 (角川ホラー文庫)

三丁目の地獄工場 (角川ホラー文庫)

父が母の首を切り落としていた。
父が振り上げた鉈は濃いねずみ色だった。
うつ伏せになった母は顎を引き、狙いやすいようにうなじを露わにしていた。
すまない。
いいんですよ。
交わされた言葉はそれだけだった。
タン。
振りおろされた鉈がうなじに埋まる。
タン。タン。タン。

女瓶

帰省したら村中の住人がおかしなことになっていた「怪人村」.女の子の死体を手に入れた僕は彼女を瓶人にすることにした「女瓶」はどこか静かで悲しい.「ぼくズ」はよくわからないけどなにやらミニマル.気づいたら地獄で働くことになっていた,という地獄(ヘル)工場」は,「地獄の偏在」をこの上なくスマートに描いた作品だと思う.「キグルミ」は舞台の中と外,虚構と現実がくるくる入れ替わるのが楽しく,やがて切ない.舞台に関する細やかな描写がとても良い.
アッパー,ダウナーを取り揃えた五篇を収録した書き下ろし短篇集.五篇が五篇とも味があって,良い短篇集になっている.個人的には「キグルミ」が傑作だと思う.演劇を書いた小説には傑作が多い気がしているのだけど,これも例外ではなかった.