王城夕紀 『青の数学2 ユークリッド・エクスプローラー』 (新潮文庫nex)

青の数学2: ユークリッド・エクスプローラー (新潮文庫nex)

青の数学2: ユークリッド・エクスプローラー (新潮文庫nex)

「醜いと美しいを分けるのは、なんですか」
栢山が言うと、スピーカーからアナウンスが唐突に入った。運転再開、間もなく電車が参ります。目を戻すと、五十鈴は諦めたように、悟ったように、笑んでいた。
「醜いものをたどっていくと、いつも自分にたどり着く」
自分に。
その言葉を、栢山は復唱する。
見たことのない鉱石がそこに潜んでいるみたいに。

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「少し分かったような気がします。数学の才能が何か」
「何?」
「自分の中にあるものでも、自分で何とかなるものでもないんです」
窓際に戻って、立ったまま外を見ていた。暮れ始めた空を。
「愛される、ということそのものなんですね、きっと」

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季節は夏から秋へ.数学オリンピック出場者との合宿を終えてから,栢山は自分を見失っていた.
数学に取り組む高校生たちの青春を描いた群像劇,第二巻.高校生の群像劇のはずなんだけど,あまりに静かで研ぎ澄まされていて,まるで剣の達人たちでも描いているような,鋭利な雰囲気が漂っている.高校生たちのやり取りや内面の描写然り,秋の日差しや静かな冬の日の情景もまた然り.「数学とは何か」,「なぜ数学をやるのか」という,作品を通じた問いに対する答えは登場人物の数だけ出る.数学とは実はとても人間的で,実はとてもあやふやなものでもある,という結論を,これ以上ない熱量で饒舌に語っていると思う.研ぎ澄まされ過ぎている印象もあるのだけど,これは類を見ない青春の物語だと思う.傑作でした.