北元あきの 『異世界で学ぶ人材業界(リクルート)』 (講談社ラノベ文庫)

異世界で学ぶ人材業界 (講談社ラノベ文庫)

異世界で学ぶ人材業界 (講談社ラノベ文庫)

「そこじゃねえ! 予算と開発期間をしっかり取って、信頼できる業者に発注しろ! そこ一番大事だろ!」
「それは理想論です」
「だ・か・ら、こんなことに、なってるんだろうが!」

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スマホのファンタジーRPGをクリアした高校生の神戸秋水は,ゲームそっくりの異世界に勇者として召喚されてしまう.目の前にいたのは,人材コンサルタントだという少女ノア・シンクレア.しかし秋水は,召喚プログラムのバグによって,勇者らしい能力も持たず,元の世界に帰ることもかなわなくなってしまう.
誰も終わらせ方がわからなくなってしまった戦争の泥沼を終わらせるには「勇者」が必要である.勇者は人材コンサルタントが連れてくる.ラノベ業界で人材業界に一番詳しいと自称する作者の「異世界キャリアアップファンタジー」.異世界という多少のオブラートに包みながら,人材業界,広告業界のブラックさを軽快な筆致で面白おかしく,そして,仕事というものに対する誇りや理想を,まっすぐに熱く描いている.この両者のバランスがすごく良い.依頼者である皇帝や,ライバル企業の人間もあまり近づきたくない感じの見事な曲者ぞろい.デビュー作からしっかりした描写が好きで読んでいた作家だけど,今回はテーマがテーマだけに,実感(たぶん)を織り交ぜ,水を得た魚のようにさらに生き生きと描いている,ように見える.これが「圧倒的当事者意識」のなせる技なのかな.電通が話題になっている今だからこそ読まれるといい作品だと思う.というかそういう時事ネタを抜きにしても良い作品だと思いました.