カミツキレイニー 『黒豚姫の神隠し』 (ハヤカワ文庫JA)

――日が落ちて(ティーダヌウチティ)夜になったら(ユールニナレェ)外に出てはいけないよ(フカカイ インジテェ ナランドゥ)

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「足掻かんね、悪童(ヤナワラバー)
亀井のオバーは不揃いな歯をのぞかせ、にやりと笑った。
ちっぽけな人間が何かを変えるには(ヌーンナランニンジン ヌ ヌーガナケーインディ イイントゥチネー)足掻くしかないのだから(アガカンネーナランドーヤ)

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沖縄本島の遥か南にある,人口1000人ほどの宇嘉見島.夜になると醜い黒豚ウヮーガナシーがやってきて子供をさらうと言われるこの島で,中学生のヨナは島を出たいと願いながら暮らしていた.東京から転校してきた波多野清子とヨナは,『オズの魔法使い』をきっかけにして距離が近づく.
デビュー作の『こうして彼は屋上を燃やすことにした』(感想)以来となる,『オズの魔法使い』をモチーフにした青春物語.ここではない場所への憧れと,その手段としての映画撮影.夏の沖縄の離島,沖縄の方言.夜になると現れる黒豚ウヮーガナシーの呪い.隣人である神々が暮らすニライカナイ.長い話ではないけれど,テーマから想像しうる青春と怪異がギュッと詰まっている.ジブリ映画のようなガヤガヤと,豚童(ウヮーワラバー)だという波多野のやたらめったらでやりすぎなくらいの可愛さが何とも楽しい.なんとなく,優しい青春ものになることを優先して書いたのかな,みたいなところがある.“よどみ”とか黒子とか,リアリティレベルが曖昧なところも多いので気になるひとは気になると思う.テーマに気になるところがあれば損はしないと思ってます.