滝川廉治 『MONUMENT あるいは自分自身の怪物』 (ダッシュエックス文庫)

人類が火を熾すよりも先に、発火の魔術に目覚めた世界。
あらゆる理論や法則に、応用として個人の魔力資質の差異が組み込まれている世界。
ソクラテスプラトンも、ベートーヴェンモーツァルトも、フロイトユングも、ヒトラースターリンも、手塚治虫藤子・F・不二雄も存在していたけれど、魔法がある世界。
不思議な力が存在しても、結局は似たような歴史を歩んできた世界の物語。

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今と同じような歴史を辿ってきた,魔法のある世界.旧ソ連出身の元少年工作員ボリス・カルノフは,とある少女を護衛する依頼を受ける.少女の名前は千種トウコ.ボリスの任務は,彼女がピラミス魔法学院を卒業するまであらゆる危険から守り抜くこと.
「魔法がある世界」と超古代魔法文明の遺跡〈モニュメント〉がキーワードになっている“ネオ・ファンタジー”.すべては後半のネタ明かしのヒントであり,大半は世界観の構築や理屈の説明を慎重に繰り返すことに費やしている.衒学的な説明が多くて回りくどい,キャラクターが嫌なヤツばかり.物語のためにエンターテイメント性が多少ならず犠牲になっている印象.というか,一言で致命的なネタバレができるといえばできる.読んでいる最中は全体的に欠点のほうが目につくのだけど,「スキーマ理論」が実践される後半は良かった,というかビックリした.こういう風にページを使うのか,という.読み終わってみると,2015年の小説に旧ソ連出身の少年が登場する,というあたりがいちばん大きなヒントになっていた気がする(ソ連崩壊の年は現実とそう変わらないらしい).試みと仕掛けは面白いし,志と心意気はおおいに買いたい.続きも期待していますが,だいぶ間が空いて本当に出るのかが心配ではあります.