石川博品 『ノースサウス あるいは恋に変わる肉の内なる刀の力』

人がこの世に生まれおちるということは、斬られることである。
母なる人から。
いくら記憶をたどっても、斬られたことは思い出せない。
だが確かにそうなのだ。

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死んじゃってもいい。
殺しちゃってもいい。
生きるってこと、人を好きになるってことを本気でやったら、いつかはそういうのにぶつかっちゃうものなんだ。

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中学生になった井遠憂樹は,パトロール中に敵対する中学校の櫟潟蛟希に出会い,斬り殺される.しかし,憂樹はすぐに生き返り,自分を斬った蛟希に恋に落ち,また蛟希も自分に斬られた憂樹を運命の人と意識することになる.
戦争中の敵味方に別れたふたりの中学生の恋とこの世界の真実.日本で中学生が帯刀というから『菊と力』(感想)のようなものかなと思っていたのだけど,どちらかと言うと『メロディ・リリック・アイドル・マジック』(感想)のアナザーサイドといったほうが近いのかもしれない.かなりいいかげんですが地名が一部共通しているしなんか戦争してるし.
「恋は戦争」に代表されるような比喩を,比喩ではなくそのままの意味で描いている印象がある.帯刀した中学生の無敵感も,わりとそのままの意味で書いているというか.Kindleだけでなく小説家になろうでも読めるので,この世界の「クソみたいな状況」を,さらっと説明する冒頭だけでも読んでみるといいかもしれない.