橘ユマ 『うさぎ強盗には死んでもらう』 (スニーカー文庫)

うさぎ強盗には死んでもらう (角川スニーカー文庫)

うさぎ強盗には死んでもらう (角川スニーカー文庫)

「……分かりました。『君の大切な人は復讐なんて望んでいない』……この台詞が、何故こんなにも神経を逆なでするのか。『綺麗ごとだから』ではありません。むしろその逆です」

「逆?」

「おそろしく、汚いからです」

第1回カクヨムWeb小説コンテスト・ミステリー部門大賞受賞作.上海最大手のマフィア,九龍新会の運営する電脳カジノで1300万ドルを稼いた伝説の賭博師“うさぎ強盗”.彼を中心に,マフィア,人身売買組織,殺し屋集団,ハッカー,アパレル店員が殺し殺され,騙し騙され.舞台は2015年の京都と2014年の上海を行きつ戻りつし,ふたつの時間軸の関係がだんだんと明らかになり,やがてひとつになる.どの登場人物もいちいち魅力的で,手加減のないハイスピードな展開と群像劇の醍醐味をこれでもかと味わわされた.個人的に良かったのが人身売買組織の新人社員,篠原.彼の抱える矜持や,迎えることになるラストには本当に泣きそうになった.

銀河ヒッチハイク・ガイド』や『ニンジャスレイヤー』といったネタも出てくるので,ミステリ畑だけでなくSF畑やニンジャヘッズにも広く読まれるといいな.特に忍殺は唐突に出てくるんだけど,そこで安直にアイエエエとか言わせないのはネタの使い方としてすごく良いと思うんだよね.勢い重視で人物の関係とかわかりにくいところもあるけど,そういうところも含めて愛おしい.傑作だと思います.

kakuyomu.jp