五月猫文 『かくて飛竜は涙を流す The Dragons' Tear』 (講談社ラノベ文庫)

かくて飛竜は涙を流す The Dragons’ Tear (講談社ラノベ文庫)

かくて飛竜は涙を流す The Dragons’ Tear (講談社ラノベ文庫)

「『惑星の声』ちゅうのは、そう、竜の声と同じ『波動』なんだけど、また違った特徴を持っている。なんというか、ものすごく大規模な雑音(ノイズ)、と言うのが良いかねぇ。この星のどこにいても混ざってくる雑音で、あたかも惑星自体が声を出し続けているようだ、ということでこの名前になった」

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帝国と連邦の間の戦争は終わった.帝国空軍のエースガンナーだったソウタ・カシワギは,連邦の竜騎兵を撃てなかった処分として除隊されることになった.船長と竜騎兵の少女シノに誘われたソウタは,ひとに害をなす竜を退治する〈ドラゴンスレイヤー〉の船に射手として同行することにする.
第5回講談社ラノベ文庫新人賞大賞受賞作.連邦と帝国,その二国に挟まれた公国の戦争と,この世界に存在する飛竜を描くファンタジー.導入のテキストが妙にぎこちなくて不安になったのだけど,飛竜の運用や,戦闘機と飛竜の連携といった描写に差し掛かると,俄然テキストが饒舌になってすらすら読めるようになる.オタクの早口を見ているようというとあれだけど,書きたいことがとてもはっきりしているのは好感が持てる.
資源というはっきりした目的のある戦争に飛竜を絡めた世界は画期的とは言わないけれど,とても丁寧に描いていると思う.竜神,〈黒の竜〉(ノワール),惑星の声といった神秘的なあれこれだったり,逆に飛竜のかわいさだったり.派手さはないけど,ひとつひとつをしっかり,とにかく堅実に描いている印象.それでいて読みやすく,なんだかんだと一気に読んでしまった.良い作品だったと思います.