紅玉いづき 『大正箱娘 怪人カシオペイヤ』 (講談社タイガ)

「目が見えたらと思ったことは、そう何度もないのですが」
翁は手のひらを目元にやって俯いて言った。
「この目では、あの子を探しにいけない」
その響きは、あまりに物悲しかった。

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「違いがあるからこそ、人は、手を、とりあって、生きられるはずです。それが、社会であり、世界だと、僕は思いたいんです」
燕也は紺の理想論を鼻で笑ってみせた。
「理想で飯が食えるなら銃はいらない」
「銃だけで、心は満たされません」
多分、筆だけでさえも。
「そこに人間が必要です。人の手が、必要なんだと思います」

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時は大正.帝都では,治せぬ病はないという「箱薬」が密かに取引されていた.取引の現場に出くわした新米記者の英田紺は,薬を手に入れようとしている混血の少年と出会う.
「秘密」を暴く怪人カシオペイヤの正体とは.一巻(感想)は「女性」にスポットを当てている印象があったけど,今回は弱者やマイノリティ全般と,それに対する強者,ひいては「人間」全般に焦点を当てようとしている印象がある.個人的には一巻の方向を貫いてほしかったのだけど,しかしこの作者のテキストは本当に綺麗だし真摯な姿勢が見えるし,そのテキストから浮かんでくる人間の姿は本当にギラギラした何かに溢れている.良い作品だと思います.