木下古栗 『生成不純文学』 (集英社)

生成不純文学

生成不純文学

以上でこの出来事はフィニッシュである。だが最後に警告しておこう。私の皮膚感覚、体感的統計では、この首都圏には少なくとも三百万人規模の潜在的野糞愛好者がいる。それは意外とあなたの近く、すなわち配偶者や恋人、そして最も信頼する上司などかもしれぬと……。

虹色ノート

四篇の短篇を収録した短篇集.比較的きれいな木下古栗が揃っているのではなかろうか.変人どもや斜め上の場面転換はもちろんあるけど,それなりに常識が備わったキャラクターが多くて,話の理屈はわかりやすい,ような気がする.
と言っといてなんだけど,冒頭が七色のうんこを微に入り細を穿って記録した「虹色ノート」.野糞男の大便に魅せられ,記録することに情熱を出すのに,大便そのものに対する常識的な嫌悪感はちゃんとあるのが面白い.うだつの上がらない二人の大人のすれ違い,みたいな話が好きならいけるとおもうけど,大便の描写が本当にひどいのでものを食べながら読むのはやめた方がいい.個人的にはいちばん好き.
ある面白おじさんの生きざまを描いた人間性の宝石 林健二郎(Shigebayashi Kenjiro)は普通に良いことを言っているのではないか,とちょくちょく騙されそうになる.炭酸水を習慣的に飲む男の小市民的な悩みを描く「泡沫の遺伝子」,ミニマルな入れ子構造(?)の「生成不純文学」は昔の筒井康隆っぽさがある.下ネタも全体的に常識の範囲に収まっていると思うし,『グローバライズ』(感想)と比べると尖ったところが少ないかわりに読みやすくなってるかな.