江波光則 『屈折する星屑』 (ハヤカワ文庫JA)

屈折する星屑 (ハヤカワ文庫JA)

屈折する星屑 (ハヤカワ文庫JA)

何も起きないと思っていた。何かを起こさなければやっていられないと考えていた。

暴走を繰り返し薬物と酒に酔い、また暴走して燃やし尽くさなければ何一つ愉しくも何ともない憂鬱だけが支配している世界だと思っていた。それほど世界は甘くなかった。起きる時は起きてしまう。

それが今のこの有様で、そして今の俺は酩酊病どころか、ただの間抜けに過ぎなかった。

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ここは太陽系に浮かぶ廃棄指定済の円筒形コロニー.ここで生まれ育ったヘイウッドとキャットはホバーバイクにまたがり,5つの人工太陽と円筒形の地面への命知らずのチキンレースを繰り返していた.鬱屈した毎日を送る彼らの前に,火星から亡命してきた軍人ジャクリーンが現れ,停滞したコロニーが動きはじめる.

“地球に落ちて来た男、デヴィッド・ボウイに捧ぐ。”.読み終わって帯を見返すまで気づかなかったのだけど,固有名詞のほとんどはデヴィッド・ボウイから取っているのね.おそらくストーリーもリスペクトしているんだろうけど,自分にはほぼわからない.申し訳ない.

何もない片田舎での,恋人とバイクだけにかまけていた日々が,外から現れた人間によって終わりを告げる.王道の青春グラフィティだと思う.円筒形コロニーという,使い古されたモチーフがまた雰囲気を出している.しかし,ちっぽけで古びた世界が打ち破られる変化やカタルシスより,どうしようもないやるせなさが全体にまとわりついている(読めば理由はわかるけど).わかりやすいけど単純ではない,鬱屈した行動原理が本当に息苦しい.王道で,良い青春グラフィティだと思います.