遍柳一 『平浦ファミリズム』 (ガガガ文庫)

平浦ファミリズム (ガガガ文庫)

平浦ファミリズム (ガガガ文庫)

「傷つけられることもある。裏切られることだってあるかもしれない。だが、そうやって何度も信じて行動し続けた先に、それでも君の隣にいてくれる人たちがいたとしたら、それが君にとっての、かけがえのない他人なんだよ」

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4094516891/baniken-22/

5年前,ベンチャー企業の社長だった母を亡くした平浦一慶.フリーターの父,トランスジェンダーの姉,ひきこもりの妹とともに,4人だけの家族として生きていた.学校生活は退屈だが,この家族さえいれば幸福だった.

家族さえいれば他に誰もいらない,そう思っていた.第11回小学館ライトノベル大賞ガガガ大賞受賞作.先生やクラスメイトといった「他人」に徹底して無関心かつ無期待な主人公の語りがひたすら青臭くて,章題を哲学や政治学から取っているのも含め,ただただしゃらくさい.だがそこが良い,みたいな青春小説であり家族小説.自分たちだけの幸福で完結し,内側に閉じていた家族が,ある事件をきっかけに社会に開いていく.崩壊した家族がまとまっていく家族ものはよくあるんだけど,逆のパターンはわりと珍しいと思う.

他人の善意は信じず,他人の正義は自己満足のナルシシズム.そういうものを,本当に徹底して,冷ややかで尊大な視線から描いているのがすごいと思う.そんな感じなので,ひとによって好みが割れそうな気がする.個人的にはとても良かったと思うし,次回作にも期待したいと思っております.