小川哲 『ゲームの王国』 (早川書房)

ゲームの王国 上

ゲームの王国 上

ゲームの王国 下

ゲームの王国 下

革命により、オンカーは有史以来、人類を長らく悩ませていた問題のいくつかを完全に解決した。借金苦による自殺、詐欺、汚職、賄賂、泥棒、強盗。すべてなくなった。綺麗さっぱり完全に消滅した。

どうしてそんなことが可能だったのか。答えは「私財がなくなったから」だ。まず貨幣という概念がなくなった。すると人々が物々交換を始めたので、これも禁止した。私有や財産が存在しない社会なのだ。こうしてパンドラの箱以来あった種々の犯罪のうち、約半分が一瞬にして消え去った。もちろん、犯罪とともに自由、愛、家族、その他諸々の概念も消失した。

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1975年のカンボジアクメール・ルージュによって首都が陥落した夜に,後にポル・ポトと名乗ることになるサロル・サルの隠し子ソリヤと,寒村で生まれた神童ムイタックがプノンペンで出会う.

不条理で滅茶苦茶なルールのもと,革命と虐殺と恐怖政治が進むカンボジアを描く上巻と,その50年後,復讐と「ゲームの王国」の実現を描く下巻からなるハヤカワSFコンテスト受賞後第一作.弾圧と虐殺の緊張感と,マジックリアリズム的なユーモアが両立した不思議な群像劇の語りが,現実と幻想の間にある奇妙な時代を浮かび上がらせていた,のだと思う.

いわゆる「伊藤計劃以後」の作品であり(もともとは「伊藤計劃トリビュート2」の収録作),問題意識が似通っているところもあるためか,読後感に新鮮みは薄いかもしれない.しかし,人生や社会をルールのあるゲームに例えた小説はいくつもある(最近は特に多い気がしている)なか,このアプローチでこれだけの大作かつ力作はそうはない.良いものでした.