旭蓑雄 『レターズ/ヴァニシング 書き忘れられた存在』 (電撃文庫)

すべての意識を閲覧し終えた私の意識は、次いで文字に囲まれた領域に存在していた。文字群の中心には石柱状の物体。私はこの光景とよく似た場所を知っていた。

火星だ。モノリスと、バベルの図書館である。

私が先に示した“世界と人間は同じ構造をしている”という結論は、正にこのとき得られた。直観的に、私はここが意志領域であることを悟った。後天的に得られる記憶情報が集う領域などとは違う、存在が始まったとき既に、各々が持ち合わせている不思議な領域。存在を、存在たらしめる場所。

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この世界のすべての事象は文字=世界言語で記された情報にすぎない.“世界言語”が発見され,技術の発達した現代.世界言語の権威である祖父から「沈黙の文字」を託された虎風,神に書き忘れられた少女ナノカ,人間を構成する“文字”を歪めることのできる少女鵬珠.三人の運命が混ざり合い,やがて世界は書き換えられる.

第20回電撃小説大賞応募作(未受賞).“世界言語”の存在が確認され,火星上ではブラック・モノリスと“バベルの図書館”が発見された.世界言語の基本ルールである魔法一条.形而上の世界言語(Meta-Physical World Language).言語によって人為的に進化する人類.帯でわざわざ「スペキュレイティブ・ノベル」を名乗るだけあって,非常に意欲を感じる.様々な分野に渡るアイデアが詰め込まれているため,テーマはごちゃっとしているけど,書くべきところと書かなくていいところはしっかり弁えている.思った以上に読みやすい.楽しゅうございました.しかしなんでこれを電撃に送ろうと思ったのか.