朝倉ユキト 『ノーウェアマン』 (星海社FICTIONS)

ノーウェアマン (星海社FICTIONS)

ノーウェアマン (星海社FICTIONS)

「この病に侵された者は、他人の記憶の中に残ることができなくなる。社会的に見れば、「存在しない人間」になるといっても良い。これらの特徴的な症状から、私はこの病気をこう名付けた。「ノーウェアマン症候群」とね」

Amazon CAPTCHA

北海道で塾講師をしながら,充実した生活を送っていた翼.しかし,彼の日常はある時を境に一変する.愛犬に突如噛まれ,職場では腫れ物扱いされ,プロポーズをした恋人からは存在を忘れられる.その原因は,出会った人物の記憶を忘却させてしまうノーウェアマン症候群だという.

誰からも忘れられ,社会的に透明になってしまった男の悲劇と小さな希望.第16回星海社FICTIONS新人賞受賞作.原因がわからないまま,少しずつおかしくなっていく日常の描写は不気味でとても良い.冒頭から物語に引き込まれる.のだけど,原因が明らかになってからはだんだんと印象がトンチキになっていく.悲劇的な出来事がトントン拍子で進んでいくというのかなあ.並行して描かれる連続殺人鬼こと,「不死身の男」の手がかりが明かされるくだりにはずっこけた.もうちょいなんとかならなかったのかと.

「忘れられる」ことの悲しさはしっかりと表現しているし,独特の緊張感に裏付けられた語りは悪くない.嫌いではないんだけど,良い意味でも悪い意味でも変な小説だと思う.