赤野工作 『ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム』 (角川書店)

ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム

ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム

今となっては真相は分かりませんが、一つ確かに推測出来ることはあります。老いている暇が無いほど熱中したゲームが、かつてそこにあった。いかなる方法を使用してでも、自分が老いていることを忘れて、勝ちたくなるようなゲームがあった。

幸せな事じゃありませんか。何かに熱中して寿命を削るという事は。

残りの寿命を数えながら遊ぶゲームなんて、味気がなくなってしまいますからね。

「世界のあらゆる低評価なゲームをレビューしていく」をコンセプトに,2115年4月に開設したレトロゲームレビューサイト,「The video game with no name」のアーカイブ.という体の,架空のレトロゲーム(といっても発売は2020年~2080年代)小説.レビューサイトだけあって,いかにもWebサイトのような文体で,なぜこのゲームが生まれ,失敗したのかを読者に向けて語ってゆく.レトロゲームに対する愛情と皮肉と哀愁がバランスよく織り込まれたテキストは読みやすく,引き込まれる.

レビューを名乗ってはいるものの,言及されるのはゲームの内容にはとどまらない.VR,AR,位置ゲーム,ソーシャルゲームといったいかにもゲームらしい技術の解説から,AI,アンドロイド,BMI,ナノマシン,サイバネティクスなど現代~近未来の技術がどのようにゲームに取り入れられたか.そして,軍事や宇宙開発,国際紛争など,ゲームと社会が互いに及ぼしあった影響.さらには,ゲームの楽しさとはいったい何なのかという哲学的な話題.

レビューを読んでいくうちに,多方向から未来社会の歴史が形作られ,それ以上に語り手であるゲーマーの姿が立体的に浮かび上がってくる.見えてくるのは,ゲームを愛し,ゲームしかなかったひとりの男の孤独な人生.面白くてたまらないのに,語り手の姿が明らかになる後半からは読み進めるのがつらくてつらくて仕方なかった.テーマ的にひとを選ぶ部分もあるのかなと思うのだけど,数年に一度の大傑作だと思います.カクヨムで読めるので,ゲーム好きもハードSFファンも,試しに読んでみるのがいいと思う.