筒城灯士郎 『ビアンカ・オーバーステップ』 (星海社FICTIONS)

ビアンカ・オーバーステップ(上) (星海社FICTIONS)

ビアンカ・オーバーステップ(上) (星海社FICTIONS)

ビアンカ・オーバーステップ(下) (星海社FICTIONS)

ビアンカ・オーバーステップ(下) (星海社FICTIONS)

ラジオから『川の流れのように』が流れている。

わたしとHAL斗は喫茶店の隅っこの席にいた。すべての席が埋まっていて、客たちはみんなタバコをくゆらせている。わたしたちのとなりの席でパイプを咥えたマッカーサーが五十円玉をたくさん積んで、真剣な眼差しでインベーダーゲームをやっていた。彼の向かいには昭和天皇が座っている。画面を覗き込みながら「そうそう、そうやるの。名古屋撃ちっていうんだよ」となにやらプレイングについて指導しているようだった。

天体観測の最中に忽然と消失してしまった姉,ビアンカ北町を探し,妹のロッサ北町は時空を超えた冒険に出る.第18回星海社FICTIONS新人賞受賞作.『ビアンカ・オーバースタディ』(感想)のあとがきに触発された新人が,勝手に書いて送りつけた続篇.やたら擬音を伴った文体(今となっては古臭く感じる)にしろキャラクターの造形にしろ,いかにもそれらしい.パロディというより,よく出来たパスティーシュ小説というべきかな.

「時をかける少女」をはじめとした筒井作品や,「涼宮ハルヒ」シリーズに「高い城の男」などのSFやライトノベル,その他いろいろなネタを取り入れた話の組み立ては思いのほか楽しいし読みやすい.ただ,異世界やタイムトラベルといった根っこのアイデアや,その描き方は現代SFなんだよな.筒井康隆風のハチャメチャなカタストロフと,そういった新しいSFガジェットの食い合わせは,悪くはないけどあまり良くもない.筒井風の下品でなんでもありなドタバタを真面目にやった結果,意外にきちんとしたストーリーに収まりきらなかった,というか.しかし正直小馬鹿にするつもり満々だったのだけど,思ってた以上には楽しかったです.