一肇 『フェノメノ 伍 ナニモナイ人間』 (星海社FICTIONS)

フェノメノ 伍 ナニモナイ人間 (星海社FICTIONS)

フェノメノ 伍 ナニモナイ人間 (星海社FICTIONS)

「……からだはきいちゃんだけど、顔もきいちゃんなんだけど……でも、あれはきいちゃんじゃなかった。目がすごく黒くて、真っ黒で……それに、きいちゃんはあんなわらいかたをしなかった。でも……そんなことわかってもらえないし……だれにいったらいいのかわからなくて……」

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気がつくと「己」は生きていた時代から10年前の世界で,生と死の間にいた.そこでとある一家の次女・Mと出会った「己」.その前に現れた,黒いドレスの少女は「己」に囁く.この一家は,7月31日にみんな死んでしまうんだよ,と.

後に「首吊り館一家惨殺事件」と呼ばれる事件の,裏に起こっていたことを描く現代怪談.そこにいるだけで怖く,関わっただけで穢れるという静かな恐怖は紛れもなく「怪談」の風情.あまり感想を言うのも野暮かなという気もしてくる.じわじわとした恐怖に締めつけられるがいい.