津久井五月 『コルヌトピア』 (早川書房)

コルヌトピア

コルヌトピア

そこには、大きく歪な環が描かれている。東は江戸川沿い、南は東京港湾臨海道路と多摩川沿い、西は環状八号線の外側、北は環状七号線の外側を結んだ、二十三区全体をほぼすっぽりと内包する直径三十キロメートルもの巨大環状緑地帯。東京に莫大な計算資源を提供する都市基幹フロラ、グリーンベルトだ。

2084年.環状緑地帯に包囲された東京は,植物を演算資源として活用する技術により,2049年の直下型地震から復興を果たしていた.フロラ設計企業に勤める砂山は,ある日発電システムで発生した小火の調査に向かう.

植物に覆われた近未来の東京.そこで起こったとある事件の顛末を描く,第5回ハヤカワSFコンテスト大賞受賞作.植物と都市建築物の奇妙な形での共生に,都市を取り巻き計算資源として利用される植物フロラという,ビジュアル面でのインパクトが強い.SFとしては派手ではないし,驚くような何かがあるわけではないのだけど,丁寧な積み重ねでストーリーを作っていると思う.静かな語りに引き込まれた.