藍内友紀 『星を墜とすボクに降る、ましろの雨』 (ハヤカワ文庫JA)

星を墜とすボクに降る、ましろの雨 (ハヤカワ文庫JA)

星を墜とすボクに降る、ましろの雨 (ハヤカワ文庫JA)

だって地球の戦場で人間を撃つスナイパーは、人間を愛しているからこそ、人間を撃っているんだ。彼らが人間を愛するのは、そう造られたからじゃない。ならボクらだって、星を愛しているからこそ、星を撃っているのだ。

それなのにどうして、星を撃つ〈スナイパー〉だけが造られた存在だと考えるんだろう。

地球圏と流星群が交錯する時代.軌道庭園では,迫る星々を撃墜するために造られた〈スナイパー〉の子供たちが黙々と役割を果たしていた.〈スナイパー〉のひとり,霧原は,整備工の神条と組んで日々星を撃っていた.

人造の眼球と改造された体を持つ〈スナイパー〉の少女の最初で最後の恋.第5回ハヤカワSFコンテスト最終候補作.別名義で出版された『緋色のスプーク』(感想),『アジュアの死神』(感想)からの再デビュー作という言い方でいいのかな.男女の微妙な距離感の描き方に似たものを感じるけど,今回はその極北のように思う.

ラブストーリーというよりはメロドラマの雰囲気を感じるけど,男女の名前が入れ替わっていたり,SFガジェットが妙に古臭かったり,独特の雰囲気が全体に漂っている.星を誰よりも愛するからこそ星を撃つという,一見して矛盾する感情に綺麗に理由付けをしているのは見事だと思う.一途な愛をもって自分を貫き通した霧原は,最終的に欲しかったものをすべて手に入れる.これはハッピーエンドと見ていいのかな.儚くて危うい,恋の物語でありました.