古橋秀之 『百万光年のちょっと先』 (集英社)

百万光年のちょっと先 (JUMP j BOOKS)

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そんな折り、最後の最後にこの場を訪れたのは、ひとりの名高い猫捕り名人でした。人間原理と独我論の達人であるこの名人が「我思うゆえに万物あり」という強固な信念の下にはったとにらみつけるや、不確定的存在と化した猫はその可能性の尻尾をがっちりと握られ、捕らえられてしまうというのです。その仕事の成功率は一〇〇パーセント。一度たりともし損じたことはないとのこと。

2005年から2011年に連載された古橋秀之のSFを集めた短編集.坊ちゃまを寝かしつけるための,自動家政婦が語って聞かせる物語という体を取っており,収録作品はだいたい7~8ページの短篇が48本.SFのショートショートにありがちな意地の悪い話は少なめ.いかにも少し不思議な話もあり,ハードSFを取り込んだ壮大なほら話あり.どこか優しい,童話のようなちょっととんちと皮肉が効いた話が多いかな.「卵を割らなきゃオムレツは」「船に恋するクジラ」「地上に降りていったサル」「四次元竜と鍛冶屋の弟子」「パンを踏んで空を飛んだ娘」「指折り数えて」「絵と歌と、動かぬ巨人」といったあたりが個人的に好み.坊ちゃまのような子供にも,SFショートショートを読んで育った大人にも楽しい短編集だと思います.