新八角 『滅びの季節に《花》と《獣》は 〈下〉』 (電撃文庫)

滅びの季節に《花》と《獣》は 〈下〉 (電撃文庫)

滅びの季節に《花》と《獣》は 〈下〉 (電撃文庫)

「……駄目ですよ、《貪食》さん。わたしはまだ満足していません」

「……」

「十分に幸せだなんて、言えません。これ以上の幸せなんて、いっぱいあります。いくらでもありますよ。……だってまだ、三年とちょっとですよ? 《貪食》さんは本当に、これ以上の幸せがないと思っているんですか? わたしたちの幸せは、この程度だと思っているんですか?」

《天子》たちの襲来からスラガヤを守りきったふたりだったが,《銀紋》の力を使い果たした《貪食の君》は眠りにつき,クロアは銀紋を持たない謎の集団に連れ去られる.ゆっくりと滅びつつある世界で,三百年の月日を超えた奇蹟が起きようとしていた.

2月に発売した『滅びの季節に《花》と《獣》は』の下巻(上巻感想).三百年に渡る兄と妹の運命の行き着いた果て.上巻の感想でも書いたけど,デビュー作とは趣の違ったかわいらしい恋物語になっている.その分,硬派なファンタジーとしての雰囲気は少しだけ控えめかな.と言っても花や植物のサイクルのように,滅びては別の場所に生まれる街を中心とした描写は相変わらず面白い.《貪食の君》とクロアの存在感が強すぎるためか,「滅び」と言いつつ,儚さがないのはテーマ的には良し悪しではある.読みやすいし,新作ファンタジーが読みたいなら良い作品だと思います.

kanadai.hatenablog.jp