石川博品 『海辺の病院で彼女と話した幾つかのこと』 (KADOKAWA)

海辺の病院で彼女と話した幾つかのこと

海辺の病院で彼女と話した幾つかのこと

この話はすでに何度もしていた。相手はその都度かわり、求められるものもちがったが、話の結末はいつも同じだ――戦いは終わった。みんな死んだ。何もかもがかわってしまった。

話を促すかのように沙也の体のモニターが電子音を鳴らす。沙也は黙って横たわっている。

海辺の病院.上原蒼は,かつて自分も入院していたこの病院を日曜日ごとに訪れていた.あの日,山間の町から広まった奇病とその後の出来事によって,家族も仲間も死に絶えた.眠り続ける仲間の前で,蒼はそのころに起きたことを語る.

パンデミックの発生による町の滅亡と,その後に起こった戦いの日々の記憶が語られてゆく.すべてをあっという間に失い,代わりに戦う力を手に入れて,殺すという夢を手にする.シンプルなサバイバル小説ではあるけれど,それだけにストレートに力強くテーマをぶつけてくる感がある.生きることと殺すことだとか,生きるための原動力としての夢だとか,物語の有無だとか必要性だとか.

なんとなく想像していたものとだいぶ違う始まり方だったので面食らったけれど,これは間違いなく石川博品だなあと思うのでした.個人的には,あとがきに↓のようなことを記しているのが印象深かった.

物心ついてから入院したことはないのだが、どういうわけか、長く入院している少女をそこに置き去りにしたまま生きているような気がずっとしていた。

この物語はそんな妄想から生まれた。

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