宮入裕昂 『スカートのなかのひみつ。』 (電撃文庫)

スカートのなかのひみつ。 (電撃文庫)

スカートのなかのひみつ。 (電撃文庫)

「大事なことなんだ」

八坂が心外とばかり顔をしかめた。

「まさに君たちの象徴というべき花じゃないか。一見すると美しく、多面性があり、裏では金玉を隠し持つ」

高校生,天野翔の趣味は,女装して街を歩くこと.ある日のこと,同じクラスの八坂幸喜真に趣味がバレ,その場でお茶に誘われる.八坂との接近が,翔のその後を大きく変えることになる.

片や世界一の女装アイドルを目指して奮闘する男子高校生一団,片や時価八千万円のタイヤ盗難を目論む女子高生一団.そこにある接点とは.第24回電撃小説大賞最終選考作は,どこか森見登美彦チックな青春群像劇.しゃれたテキスト,とぼけた語り口で少し不思議.高校生の挫折と克服をストレートに描いており,ブロードウェイミュージカルみたいなところもあると感じた.語りはいくらかポエジーで,ときどきシンプルで力強い言葉が差し挟まれるのが良い.青臭くて,ストレートに胸に来るものがある.

群像劇と言いつつ,語り手の大半はふたりの人物に絞っている.その代わり(というべきなのか),登場人物の描写にかなり力を割いているように思った.というか,登場人物がほんとう誰も彼も個性的でかっこいいんだ.ほぼ主人公のような立ち位置にいる八坂幸喜真が特にかっこいい.体型が百キロを超えるデブで留年生,面白いことが大好きで名前の通り好奇心の塊,夢はサンタになって空を飛ぶこと.こんな男がこんなかっこいいキャラクターだと想像できるか.ストーリーテリングは荒削りなんだけど,タイトルの意味を理解した時の感覚は忘れがたい.良かった.今年一番かっこいい青春小説だったと思います.

「この先、君はもっと大きな困難に立ち向かうことになる。心は荒むだろうが、我慢することはない。好きなだけ暴れて、叫んで、迷惑かけて、そのあと思いっきり笑えばいい! 怪獣になったっていいじゃないか! 自分にしかできないことがあるなら、それは誰にとっても“可能性”なんだと思う!」