鳩見すた 『地球最後のゾンビ -NIGHT WITH THE LIVING DEAD-』 (電撃文庫)

地球最後のゾンビ -NIGHT WITH THE LIVING DEAD- (電撃文庫)

地球最後のゾンビ -NIGHT WITH THE LIVING DEAD- (電撃文庫)

「ううん、ここでおしまい。わたしは地球最後のゾンビ。人類が倒すべき最後の敵。わたしが死なないと、みんなの物語が終わらないんだよ」

後に「インシデント」と呼ばれることになる,全世界同時多発ゾンビパンデミックから5年.ゾンビはすでに全滅したと考えられていたが,人類はかつての千分の一まで減少し,文明は壊滅的な打撃を受けていた.荒廃した東京を旅する少年ユキトは,北海道を目指して旅をする少女エコと出会う.エコは,他に類を見ない「ゾンビ化していないゾンビ」だった.

少年はゾンビの少女と手を取り,壊滅した世界を北へと向かう.ボーイ・ミーツ・ガールにしてポスト・ゾンビ・アポカリプス.ちょう良かった…….様々なゾンビ映画,小説,ゲームからネタを拾っており,和製ゾンビの総決算みたいな印象を受ける.それと同時にセカイ系に言及したり,(たぶん)伊藤計劃以後を拾っていたり,別の自作のネタを使っていたり,ネタは細かく多岐に渡る.

もしいま日本がゾンビで壊滅したら誰が何をするのか.倒すべき敵が全滅した今,復讐心や怒りや後悔はどこへ向かうのか.これに対する作中の回答は,「今」ならではのものだと思う.古びるのも早いかもしれないのだけど,いろいろな意味で今を切り取った,今でなければ書けないゾンビ小説なのではないかと思う.傑作だと思いました.