瀬尾つかさ 『ウェイプスウィード ヨルの惑星』 (ハヤカワ文庫JA)

ウェイプスウィード ヨルの惑星 (ハヤカワ文庫 JA セ 2-3)

ウェイプスウィード ヨルの惑星 (ハヤカワ文庫 JA セ 2-3)

生き物がみな、生存と繁栄のための合理的な行動を取ると考えるのは素人がよく犯す間違いだ、とケンガセンは知っている。

逆なのだ。たまたま合理的な行動を取った個体が偶然にも支えられて生き残ってきた、ただそれだけなのだ。

25世紀.地球は海面上昇によって地表の大半が海面に沈み,ミドリムシの変異体,エルグレナに支配されていた.地球の調査にやってきた木星圏生まれの研究者ケンガセンは,島嶼部で暮らす巫女のヨルと出会う.ふたりは菌類と藻類の共生体であり,知性を持つと言われている巨大な白い花,ウェイプスウィードの調査に赴く.

知性を持った藻類が支配し,人類がマイノリティになった地球を舞台にした海洋SF.宇宙へ進出した人類と地球に残った人類.地球人類と地球を覆うミドリムシ.それぞれの共生とコミュニケーションが主題になるのかな.決して派手ではないテーマを落ち着いた筆致で地道に描いていると思う.正直地味かなとも思うけど.物語のスケールに比べて,それを語る視点の狭さに不思議なギャップがあるかな.地球や宇宙ではなく,ケンガセンとヨルの物語という側面が強いんだろうか.肩肘張らず読めるファーストコンタクトSFでありました.