さがら総 『教え子に脅迫されるのは犯罪ですか? 2時間目』 (MF文庫J)

教え子に脅迫されるのは犯罪ですか? 2時間目 (MF文庫J)

教え子に脅迫されるのは犯罪ですか? 2時間目 (MF文庫J)

――この話は、俺が書いても、よかったんじゃないのか?

作家とは現実から嘘の種を拾い、育てた嘘を現実よりも美しく咲かせる仕事だ。せめて切り口を思いつくことぐらい、すべきだったんじゃないのか。

くだらない現実のぬるま湯に浸かっているあいだに。

この身体からは、想像力以上のものが、喪われてしまっているのではないか。

夏休み.学習塾TAX調布校の夏合宿が始まった.閉校が決定した府中校から転入生が入り,様々な問題がありつつも引率に勤しむ講師の天堂.作家としての同期に女子中学生を引き合わせたり,女子クラスの寝室に忍び込んでみたりと,夏の日々は淡々と進んでいく.

書きたいことが合ったはずの作家は目の前のことを淡々とこなすだけの大人になった.大人と子供の視点の違い,才能のある人間とない人間がやらなければならないことの違い.ロリコン的なあれこれとか時事ネタギャグ(やばたにえんとか日大タックルとか)を挟みながらも,語り手は徹底的に冷めている.上の引用部にあるような,自分から知らぬ間に何かが失われてしまったことに気づいたときの不安感,焦燥感.思い当たるものがあり背筋が凍る思いがした.「お仕事×年の差ラブコメ」という煽り文句はなんだったのか.

「『人間不信』はさがら総の本質だ。他者はもちろん、自身のことさえ彼は信じていない」という渡航の解説には膝を打った.『変態王子と笑わない猫。』のころから「信頼できない語り手」の,据わりの悪い小説を書くひとだとずっと思っていたのだけど,この言い方のほうがずっと腑に落ちる.というか解説に「理解できない。怖い」とまで書かれるのはすごいな.



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