- 作者: 鴨志田一,溝口ケージ
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/アスキー・メディアワークス
- 発売日: 2015/09/10
- メディア: 文庫
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やさしくなるために生きる。
そんな生き方は誰も教えてくれなかった。
自然と涙が溢れたのは、翔子のやさしさに触れたから。何もできなかった自分を、翔子が許してくれたのだとわかったから。そう感じたから……。その上で翔子は、これからやさしくなっていけばいいと教えてくれたのだ。
だから、安心して涙が溢れた。止まらなかった。
時は10月,中間試験が近づくころ.引きこもりを続けていたかえでが,「今年こそ学校に行く」と兄の咲太に宣言する.まずは外に出ること,電話にでることと,かえでは自分の立てた目標を少しずつこなしていく.かえでがいじめを受けて青春症候群を発症してから約2年.目標達成は簡単ではないが,2年前の断絶を越えて,妹は着実に変化しようとしていた.
2年前に妹と,家族に起こったこと.そのころの友人との再会と,停滞していた妹の変化と成長.咲太とかえでが横浜から藤沢に引っ越してきた理由の詳細が語られる,実質的なエピソードゼロ(の一部)なのかな.妹の身に起こっていることは,衝撃的なものではあるけれどフィクションとしては特別珍しいものではないのだと思う.海辺での出会いによって「やさしくなるために生きる」ようになったことを,ぶっきらぼうだけど素直な言葉で語る.それは,家族に寄り添って生きることだったり,「理解して、支えること」の難しさだったり.
単にあるべき姿に戻るだけではなく,失ったものも当然あり,それでも一歩前に進むことができる.ここまでのシリーズの中でいちばんしっくり来るというか,今までになくすっと入ってくる結末を見せられた.なんか,泣かされてしまった.