三秋縋 『いたいのいたいの、とんでゆけ』 (メディアワークス文庫)

いたいのいたいの、とんでゆけ (メディアワークス文庫)

いたいのいたいの、とんでゆけ (メディアワークス文庫)

「間にあわなかったんです。私、死んじゃいました」

少女は僕の上に跨り、胸倉を掴んで揺さぶった。「何てことをしてくれるんですか? どうしてくれるんですか?」

口を開こうとした瞬間、少女の右手が飛んできて僕の頬を張り、そのまま二発、三発と叩いた。鼻の奥がつんとして、血が出てくるのがわかった。だがこちらにそれをどうこういう資格はない。

僕はこの少女を殺してしまったのだから。

唯一の親友を自殺でなくした大学生の僕は,飲酒運転によってひとりの少女を殺してしまう.僕に殺されたはずの少女は,死の瞬間を“先送り”することによって十日間の猶予を得た.彼女は,残された十日間を,自分の人生を台無しにした人間たちへの復讐に捧げるという.

作者があとがきで曰く「二度と抜け出せない穴に落ちた人の物語」.残されたわずかな人生を復讐に捧げる少女と,復讐の手伝いをすることになった大学生の奇妙な道行き.少女の復讐には容赦がなく,彼女を復讐に駆り立てる虐待の描写にももちろん容赦はない.全編に渡って後ろ向きに全力で心をすり減らしてゆく.作者の言う通り,救いはどこにもないし,読めば読むだけ胸くそが悪くなる.

あとがきまで読めば作者の意図はなんとなくわかるんだけど,そこに至るまで何度も心が折れそうになる.黙っておすすめされたら相手を殴ると思うわ.作品に魅力があるのは分かるし,好きなひとは好きだろうなというのは想像できるけど,しかしうまく説明するのが難しいな.