- 作者: 旭蓑雄,白井鋭利
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2017/11/10
- メディア: 文庫
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俺はそのバグを見て、不条理劇を得意としたイヨネスコという劇作家の「犀」という作品を思い出した。彼は、人々の中にファシズムが浸透していく様を、犀化する人間で表現した。
変わっていく。異なった考えのもと存在するものが変化し――均一化されていく。
その様はシュールであり、面白く……かつ恐ろしい。
アキバ特区の都市伝説.パラレルと呼ばれる拡張現実に覆われたこの街では,人々がつけたデバイスを経由してその行動を監視し,ビッグデータ化された意識を収集していると噂されていた.アキバ特区でバイトをしている聴波歩夢は,スクールカースト上位のクラスメイト,衣更着アマタがホロ・コスプレをしながらARゲームに興じるところに出くわしてしまう.
意識を学習した街に,人の無意識が形を持ったバグを呼び起こす.空想と現実が限りなく近づいた都市で,技術とひとの意識は互いを変えるか? みたいな哲学的な小説.ARが当たり前になった,ハードSF色の強い導入の風景はなんとなくチャールズ・ストロスを思い出す.
自己実現の道具としての拡張現実.現実と拡張現実の間にある認識のズレ.拡張現実の自分とファラリスの雄牛.オーウェリアン,イヨネスコ,「怒りの葡萄」,ファラリスの雄牛といった単語が普通に使われるあたりに,作者の教養と問題意識が感じられる.それでいて変にわかりにくくせず,オタク小説らしさもそこそこで,バランスの取れたエンターテイメントになっていると思う.アキバ特区という舞台を縦横無尽に使った,楽しいSFであり思弁小説であり青春小説でありました.
……なるほど、心が見えないものだなんて、確かに、前時代的な考えなのかもしれない。