飛浩隆 『零號琴』 (早川書房)

零號琴

零號琴

どうだねトロムボノク君、古今最大級の楽器、五百年ものあいだ姿を消していた想像の楽器が、いよいよひと月後に、秘曲〈零號琴〉を鳴りわたらせる。

誓ってもいいがこんな機会は二度とない。

轍世界で――いや、この宇宙で一度きりしか鳴らない音だ」

特殊楽器技芸士のセルジゥ・トロムボノクと,その相棒で第四種改変態のシェリュバンは,大富豪のパウル・フェアフーフェンの依頼に応じ,惑星〈美縟〉に赴く.その首都である〈磐記〉は,建国五百年を記念した古代楽器〈美玉鐘〉の再建と,全住民が参加する大假面劇の開催を一ヶ月後に控えていた.セルジゥはここで,秘曲〈零號琴〉の演奏に参加することを求められる.

国を啓いたと言い伝えられる秘曲〈零號琴〉が五百年ぶりに鳴り響く夜に,現実と神話の二次創作たる大假面劇がはじまる.プリキュアのようなもの,ゴレンジャーのようなもの,ウルトラマンのようなもの,その他,のようなものたちが「最終回の向こう側」に立ち上がる.各種のアイデアを見せつけては投げ捨てるかのような,おそろしくゴージャスでわちゃわちゃした一大エンターテイメント小説となっております.「飛浩隆16年ぶりの第2長篇」の煽り文句からこういう小説が出てくるのは正直まったく想像できなかった.あとがきで作者自身が言う通り,「新しいもの」はおそらくないのだろうと思うのだけど,600ページがあっという間だった.ただただ楽しゅうございました.