本田壱成 『終わらない夏のハローグッバイ』 (講談社タイガ)

終わらない夏のハローグッバイ (講談社タイガ)

終わらない夏のハローグッバイ (講談社タイガ)

サードアイが生まれて五年が経った今になっても、世界中で繰り返される質問がある。

――人間の脳に送り込む感覚情報を、サードアイはどのように構築しているのか?

質問が繰り返されるということは、回答も繰り返されるということだ。もう何度となく数多の人間の口から語られたそれを、僕は改めて脳内で弄ぶ。

――サードアイは、感覚情報を構築してなんていない

水喪〈第六感覚〉関連技術研究所で,二年間に渡って眠り続ける少女,結日.彼女を見舞い続けていた幼馴染の高校生,日々原周は,夏休みを前にすべてを諦めようとしていた.

五感すべてをコントロールし共有することが可能となる技術,〈第六感覚〉(サードアイ)が当たり前になった世界で,二年間眠り続ける少女と,彼女を救おうとする幼馴染の少年の,ある夏休みの物語.AR,VRといった仮想現実から始まり,五感と脳の情報化による人類の拡張,さらにはファーストコンタクトまでをひとつの線で貫いてゆく.

最先端の研究所誘致によって急速で歪な発展を遂げた東北の漁師町と,日常の一部となった情感素(インフォセル)虚構存在(オブジェクト)のイメージはビジュアルとエモーショナルの両方に訴えかけてくる.眠り続ける幼馴染とその姉がしようとしたことの結果や,「出逢い」と「孤独」の感覚は,SFのひとほど理解しやすいのではないかと思う.SFの(決して新しいわけではないけど強固な)アイデアと,エモーショナルに強く訴えかけてくる青春のすれ違い.これ以上ない,理想的な青春SF小説なのではないでしょうか.