紙城境介 『継母の連れ子が元カノだった 昔の恋が終わってくれない』 (スニーカー文庫)

継母の連れ子が元カノだった 昔の恋が終わってくれない (角川スニーカー文庫)

継母の連れ子が元カノだった 昔の恋が終わってくれない (角川スニーカー文庫)

さて。……言うまでもなく、これは崩壊の序章である。

というか、中学生の愛の告白が崩壊の序章でない確率なんて、たぶん五パーセントを下回るだろう――中学生カップルが一生を添い遂げるなんてこと、現実的に考えれば、そうそうあるわけがない。

なのに、当時の僕たちは、あるわけがあると思っていたのだ。

中学生だった伊理戸水斗と綾井結女は恋人同士だった.それから半年.卒業を機に別れることになったふたりだったが,水斗の父と結女の母の再婚により,意図せずひとつ屋根の下で暮らすことになってしまう.

第3回カクヨムWeb小説コンテスト・ラブコメ部門大賞受賞作.「実際リアルでこの状況になったら地獄だと思います」と作者ものたまうシチュエーションを,ふたりの語りで交互に描く.ストーリーや舞台に「京都」や読書,とりわけ「ミステリ」をねじ込んでいく自己主張の強さがいかにも京都の作家らしいがそれはさておき.

あまあまな中学生活を送っていたふたりが,些細なことから互いに大嫌いになって別れるまでの流れといい,否応なしにきょうだいになって両親に黙ったままぎすぎすするくだりといい,中学生なりに盲目的に燃え上がった恋愛を,別れたあとの冷めた目で見直す羽目になることといい.当事者からしたら本当に「地獄」であろうシチュエーションを,第三者(読者)視点から見たときの面白さよ.他人の不幸は蜜の味みたいなゲスい気持ちと,なんだかんだと互いを気にせずにいられない,中高生らしい恋愛心理のかわいらしさを微笑ましく見る気持ちが良いバランスで浮き上がってくる.うまくて楽しいラブコメでありました.続きも楽しみに待っております.



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