柞刈湯葉 『未来職安』 (双葉社)

未来職安

未来職安

目標に向かって努力できる、というのがずいぶん羨ましく感じる。わたし達の世代は、目標を持つこと自体がずいぶん遠い。

徹底的な自動化と効率化により,99%の「消費者」と1%の「生産者」に分かたれるようになったちょっと未来の社会.すべての国民に生活基本金が支給され,働かなくても生きていけるようになったものの,それでも働きたいという需要は健在.ここにはそんな「消費者」のための,怪しい民間職業安定所がありました.

いざ読んでみたら,「99%の〈消費者〉と1%の〈生産者〉」というキャッチコピーから想像していたのとだいぶ違っていた.脱臭されたいかにもな「近未来感」描写の中から,日本社会の面倒くささとせせこましさが強くにじみ出る.和風「第六ポンプ」というかゆるディストピアというか,強い皮肉と反体制小説みを感じる.『横浜駅SF』をより楽しく,より息苦しくした印象かな.今とは違った需要と供給,悩みがある近未来社会の描写はとても面白いのだけど,身近で想像しやすいぶん,同時にちょっとしんどくなる.個人的には作者の作品でいちばん好きな小説でした.



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