ケン・リュウ編/中原尚哉・他訳 『折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー』 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

「わしはもう余命いくばくもない。あと三、四百年生きられたら御の字じゃ」

玉蓮は皿の山を床に落とした。

「そんなのもう“介護”といえないわ! あんたの介護にあたしの一生が費やされるどころか、息子も孫も、十世代あとの子孫まで犠牲になるなんて。早く死んでよ!」

劉慈欣「円」は,秦の政王と荊軻が三百万の兵を利用したコンピュータを生み出す話.暗殺者というより学者肌,というかただの数学オタクと化した荊軻が楽しくて切ない.がらっと雰囲気を変えた「神様の介護係」もまたユーモラスで楽しい.あと個人的に良かったのは,陳楸帆「鼠年」,馬伯庸「沈黙都市」,郝景芳「折りたたみ北京」,夏笳「百鬼夜行街」かな.「折りたたみ北京」(2014年発表)では,三つの階層に分かれた近未来の北京で紙幣が普通に使われている描写があって,今の中国のスピード感が見て取れるのも興味深い.

ひとりを除いて80年代生まれの,現代中国作家の手による13篇にエッセイを集めたSFアンソロジー.こんな素晴らしいアンソロジーを編むのみでなく,現代中国の小説だからといって婉曲的なメタファーやアイロニーだけに目を向けると危険だよ,もったいないよと繰り返し警告し,読み方を教えてくれるケン・リュウに感謝したい.掛け値なしに,ハズレ無しのアンソロジーだと思う.