渋谷瑞也 『つるぎのかなた』 (電撃文庫)

つるぎのかなた (電撃文庫)

つるぎのかなた (電撃文庫)

嬉しいぞ。正真正銘、お前もこっち側らしい!

「我ァあああ―――――――――――――――ッ!!」

悠の咆哮で、硝子がびりびりと揺れる。それがどうしたと、快晴もまた吠えた。

「殺あああアアアあアア――――――――――っ!!」

さあ、行くぞユーくん。この日のために生きてきた。昔のことを覚えてなくても構わない。たった今からのこの名前――生涯覚えていてもらう!

かつて最強と呼ばれながら,剣を捨て表舞台から姿を消した剣鬼,悠.高校剣道界最強の笑わない剣士,快晴.ふたりの剣士は,つるぎのかなたで再会を果たす.

第25回電撃小説大賞金賞受賞作は,剣道をテーマにした青春群像劇.自分を負かす者を待望する剣姫,吹雪.偶然の出会いから剣道部に入ることになる未経験者の史織.登場人物が非常に多く,正直なところ読みやすいとは言い難い.それに剣鬼だの剣姫だの,いくらトップクラスとはいえ高校の剣道部じゃないか,みたいな気持ちも湧いてくる.

しかし,やりすぎなくらいの熱が込められた試合の場面を読むと,そんな気持ちも吹き飛ばされそうになる.たかが剣道部,されど剣道部.剣道の試合はこういう風に描くのか,掛け声はこういう風に描くのか,という新鮮さと勢いと熱.それに,登場人物は多いけど,モブと言えるキャラクターがいないのよな.全員に何かしらの見せ場を用意している(読みにくさと表裏一体ではある).全体的に見ると荒削りにもほどがあるけど,前のめりな創作姿勢は嫌いにはなれない.


小さく礼。「お願いします」の声が重なる。同時、悠の声が無意識に漏れた。

一歩、二歩、三歩。『剣姫』が威風堂々、世界の中心で剣を抜く。……ああ。

「綺麗だ」