- 作者: 松村涼哉
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2019/03/23
- メディア: 文庫
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代表は度重なる質問に、次第に涙を流し始めた。
堪えきれなくなったのか、強い口調で発した。
「思う訳がないんだ。ある日突然、自分の周囲から犯罪者が出るなんて。そんなことを日頃から考えている人間がどこにいるんだ」
「すべて、吹き飛んでしまえ」.ひとりの少年が淡々と語るその犯行予告が動画共有サイトにアップロードされてから1時間後,JR新宿駅中央線ホームが爆発した.首謀者と目される少年の情報は,すぐにネットに出回った.都内の通信高校に通う15歳の少年,渡辺篤人.
15歳の少年はなぜテロリストになったのか.記者の安藤は,行方をくらました少年の足取りを追う.少年法と少年犯罪をめぐるサスペンス小説.家族を少年に奪われても,犯人を罰することができない被害者と被害者家族.法律に保護される加害者と加害者家族.無責任な正義の「声」は,被害者と加害者,両方を追い詰める.
これほどはっきりした問題意識を持つ小説は珍しいと思う.作中で語られる少年法の穴と少年犯罪の現状には取材の跡が見える.ただし,話運びはぎこちない.テロの真相は複雑というより不自然さや強引な印象が勝る.レーベルの都合もあるのだろうけど,このテーマで少年少女を主人公にした物語を描くのは難しかったんだろうな.250ページでは単純に紙幅が足りていない気もする.いつか,同じテーマで腰を据えて書いたものを読んでみたいかな.