- 作者: 今慈ムジナ,やまかわ
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2019/04/18
- メディア: 文庫
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少年は、世界に残された最後の幻想だった。
夏至の日、少年は十五歳の人の形で自然発生的に生まれた。
社会常識や一般教養はあるが、過去の記憶や記録がない。同種の仲間もなく、怪物らしい無双の力もなく、ついでに名前もない。
何者にもなれなかった怪異だと、すぐに少年は理解する。この世に自分以外の怪異がいないことが、少年の存在に刻まれていた。
そして「この平成の夏が終われば自分は消滅する」と識っていた。
十五歳の少年の姿をした《最後の幻想》は,《空想を終わらせる男》左右流,《絶えた怪異を殺す少女》神座椿姫と出会い名前を授かる.世界最後の怪異,夏野幽の,平成最後の夏の物語.
幻想や怪異が死に絶えた世界で生まれた,最後の怪異が遺したもの.帯に曰く,「平成最後を締めくくる新伝奇」であり「ゼロ年代を愛したすべての読者へ、この作品を捧ぐ。」.章ごとに吸血鬼,人魚,化け猫を描いており,全体で見ると,平成に生まれた伝奇へのリスペクトをひしひしと感じる.というか『月姫』の影響を受けた平成最後の作品になるんじゃないかね.絶えた怪異と人間から生まれた「乖異」,空想と現実の距離の考え方とその語り方がとても興味深い.ひとにはすすめにくい作品ではあるのだけど,個人的にはとても好きなタイプの小説でした.