門田充宏 『追憶の杜』 (創元日本SF叢書)

追憶の杜 (創元日本SF叢書)

追憶の杜 (創元日本SF叢書)

たとえ愚かだと笑われたとしても、それでも世界の善意を信じて生きていく方が、きっと、ずっといい。

第5回創元SF短編賞受賞のデビュー作『風牙』のその後を描いた三編,「六花の標」「銀糸の先」「追憶の杜」を集めた中編集.記憶の汎用化技術がより一般的になり,情報流(ストリーム)が生活により密着するようになった近未来の社会.そこで起こりうることを,その中心人物であるHSP(ハイ・センシティブ・パーソナリティ)感覚情報翻訳者(インタープリタ)である珊瑚を通して描く.英題の「Memento Mori」がいいなあ.

柔らかい関西弁に乗せて,「記憶」が持ちうる可能性を静かに語ってゆく.あたかもインタープリタが記憶を汎用化するかのように.帯が言う「祈りと希望」を信じることを前提とした物語は,ひとの数だけ存在する記憶になにができるかを,読者といっしょに探っている感覚がある.驚くようななにかはあまりないかもしれないけれど,上の引用部分のような静かな信念というか,力が感じられた.



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