- 作者: 裕夢
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2019/06/18
- メディア: 文庫
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そう、少年は思ったのだ。中途半端に手の届くところを飛んでいるから、足を引っ張ってみようなんて浅ましい考えを他人に抱かせてしまう。
もっと高く、もっと遠く、手を伸ばすことさえバカらしくなるような場所で輝けばいい。誰にも触れられない、撃ち落とされない場所で美しく在ればいい。
それは例えば、夜空で青く輝く月のように。
いつか本で読んだ、ふたの開かないラムネの瓶に沈んだビー玉みたいに。
「五組の千歳朔はヤリチン糞野郎」.福井県一の進学校に通う千歳朔は,学校裏サイトで誹謗中傷を受けつつも,学校のトップカーストに君臨しつつ仲間たちと楽しい学校生活を送っていた.二年に進学した春のこと.クラス委員長に指名された朔は,引きこもりでオタクのクラスメイトを学校に連れてくるよう担任教師から指示を受ける.
第13回小学館ライトノベル大賞優秀賞の「”リア充側”青春ラブコメ」.オシャレなイケメン,運動神経抜群で成績も上位にして高コミュ力を誇る主人公の一人称小説.ライトノベルとしては異色なテーマではある.「弱キャラ友崎くん」を別視点から描いたような印象があるけど,リア充と非リア,陽キャと陰キャ,スクールカースト間の対立とコミュニケーションを描くことにより重きを置いているかな.エンターテイメントとして重くなりすぎず,それでいて一面的にならない描写を目指していると思う.強キャラを自称する主人公が,どうやら腹に一物あるらしく,信用できない語り手としての不穏さが漂う.個人的にとてもよいと思うところ.
引きこもり男子高校生の山崎健太がヒロインみたいな立場にあるのが愉快なところ.福井県のローカルネタ(縁がない土地なのでググらないとまったくわからないレベル)が多いのでご当地小説としても楽しいかもしれない.おそらく出るであろう続きも期待しております.