浅倉秋成 『九度目の十八歳を迎えた君と』 (ミステリ・フロンティア)

九度目の十八歳を迎えた君と (ミステリ・フロンティア)

九度目の十八歳を迎えた君と (ミステリ・フロンティア)

過去を思い出す作業には、ささやかな快感と充足感が伴う。そんなことを書いておきながら矛盾してしまうが、やはり思い出の旅が終盤に近づいてくると、痛みの方がずっと強くなってくる。終わってしまった過去のこととはいえ、間違っても他人の話ではないのだ。歴史書を眺めているのとは訳が違う。痛みは未だに、確かな記憶として体内に救い続けている。簡単に風化してはくれない。

残暑厳しいある朝のこと.印刷会社に勤務する間瀬は,向かいのプラットフォームに高校時代のクラスメイト,二和美咲の姿を見つける.二和美咲は最後に出会った高校三年生のまま,恋していた頃の姿そのままだった.

三十歳を目の前にした俺の前に現れた,十八歳のままの彼女はなぜ「十八歳」にとどまり続けるのか.彼女が年を取らなくなった原因を探るため,かつての恩師や同級生と出会いながら,現在と高校時代の思い出をめぐる,「魂の解放」の過程の旅.大人になることで失うものと,高校時代に置き去りにされた思い出と抱えたままの鬱屈,みたいなテーマは珍しいものではないと思う.「年齢」を重要な,それこそ絶対に超えられないファクターに置いているのが特徴的なところ,なのかな.あらすじから受ける印象以上に不思議で,切ない青春小説だと思いました.