小林泰三 『神獣の都 京都四神異譚録』 (新潮文庫nex)

神獣の都 :京都四神異端録 (新潮文庫nex)

神獣の都 :京都四神異端録 (新潮文庫nex)

「東京から、何人で来たんでっか?」中年の小男が尋ねた。

「一人です」

「えっ? おまはん、御幾つでっか?」

「二十歳です」

「二十歳で一人旅……友達、おらんっちゅうことでんな?」

片思いの失恋を癒すため,ひとりで京都旅行に来た大学生,滝沢陽翔.ふらりと訪れた伏見港で,派手な装束を纏った男たちがひとりの少女に異能で襲いかかっているところに出くわす.特撮の撮影かな? と近寄っていった陽翔は,京都と日本の行く末を占う闘いに巻き込まれてしまう.

京都の歴史の裏側では青竜,朱雀,白虎,玄武,麒麟と,それぞれの眷属が闘いを続けていた.怪獣(怪獣ではない)と忍者(忍者ではない)が現代京都を大暴れする,現代異能ファンタジー.いろんな勢力が入り乱れるけれど,五行の相生と相剋をこれでもかと説明してくれるので特に気にせず読めると思う(というか気にする必要もないかも).不思議なノリの流れるようなボケとツッコミに乗せて,感慨もなくあっさりと崩壊してゆく京都市街.これこそ小林泰三,というスペクタクル小説だった.楽しゅうございました.