深沢仁 『この夏のこともどうせ忘れる』 (ポプラ文庫ピュアフル)

(P[ふ]4-7)この夏のこともどうせ忘れる (ポプラ文庫ピュアフル)

(P[ふ]4-7)この夏のこともどうせ忘れる (ポプラ文庫ピュアフル)

母が初めて僕の首を絞めたのは僕が小学四年生のときで、夏休みのことだった。

はじめて母のいない夏を迎えた,受験生の夏合宿の出来事「空と窒息」.ある二組のきょうだいの秘め事を描く「昆虫標本」.夏祭りの日,花火の晩に毎年会おうと誓った五人の少年たちのその後「宵闇の山」.高校最後の夏に,ある理由から「生き残り」と呼ばれるクラスメイトと付き合うことにした女子高生の決意「生き残り」.行方をくらました父の残した海辺のアパート,そして夜の海での不思議な出会いの話,「夏の直線」

テーマは「夏休みの高校生」(あとがきより).夏の強い日射しと,そこにくっきり浮かぶ強い影が描かれる短編集.むせ返るような夏の描写と,どこか背徳的な物語が美しい.どこから切り取っても美しい文章で描かれる,夏の屋内と屋外,夏の昼と夜の対象的な描写が非常に印象強い.「英国幻視の少年たち」の完結から,物語の密度と描写がさらに磨かれた印象があった.「昆虫標本」の触れてはいけない背徳感と「生き残り」の語り手が持つ不思議な前向きさが個人的にとても良かったと思う.「文学性が強い」というのかな.とても良い短編集でした.


この夏、私はキスが上手くなり、虫を殺せるようになった。

それだけでまあいいかなと思う。



kanadai.hatenablog.jp