八目迷 『夏へのトンネル、さよならの出口』 (ガガガ文庫)

夏へのトンネル、さよならの出口 (ガガガ文庫)

夏へのトンネル、さよならの出口 (ガガガ文庫)

僕がトンネルに入ってからちょうど二時間が経過していた。

「三秒で二時間」

これは、つまり。

「トンネル内での一秒は、外でおよそ四〇分……」

なんでも欲しいものが手に入る代わりに,入った者は歳をとってしまうという都市伝説,「ウラシマトンネル」.無気力な高校生,塔野カオルは,夜の散歩中にウラシマトンネルらしきトンネルを発見する.カオルは転校生のクラスメート,花城あんずと手を組んで,ウラシマトンネルの探索を行うことにする.

取り戻したいものは,五年前に死んだ妹.第13回小学館ライトノベル大賞ガガガ賞&審査員特別賞W受賞.夏休み,田舎町,転校生の少女,そして時空を超える「ウラシマトンネル」と,これ以上ない舞台と雰囲気で描かれる青春SF.

普通に頑張ることでしかなれない特別なものがあり,この時間でないと手に入らないものがある,ということをウラシマトンネルに託して語る.SFよりも青春小説としての側面が強いかな.妹の死をきっかけに,修復の方法がなくなってしまった家族の描き方に特に力を入れている印象がある.過去の清算の難しさや,親と子供のすれ違いをリアルに,ある意味かなり残酷に描いていると思うんだよな.それなりにページ数もあってまとまっていると思うのだけど,語りきれていない部分がまだありそうだと感じた.もっと長い尺で読みたくなる.そんな小説でした.