さがら総 『教え子に脅迫されるのは犯罪ですか? 5時間目』 (MF文庫J)

教え子に脅迫されるのは犯罪ですか? 5時間目 (MF文庫J)

教え子に脅迫されるのは犯罪ですか? 5時間目 (MF文庫J)

「『面白さ』だけは、理屈じゃない。どうしたって、理屈じゃないんだ。その論理化できない論理のために、編集者(おれたち)は汗水垂らして働いているんだよ。才能の奴隷は、面白さには逆らえないから」

才能の奴隷。

それは、自虐のようで、確かな矜持を感じさせる言葉だ。

己には、才能を見抜く力があるということだから。

新企画の取材のために箱根を訪れた天神とヤヤ.別の仕事に捕まって遅れる編集者の代わりに,なぜか箱根に現れたのは星花と冬燕の凸凹コンビ.すわ,三人の女子中学生に囲まれての温泉回かと思いきや,突然の湯けむり殺人事件,始まり始まり.

こういうのもイラスト詐欺というのかな.凡人である天神の視点で,「才能」の存在について書きつけていく.この世界には化け物のように輝く天才がいて,絶望と嫉妬に狂う凡人がいて,自らを才能の奴隷と言う人間がいる.本を売るためなら悪魔に魂を売ってそれ以上に売りつけてやるとまで言う編集者がいて,作家を愛し,ともに生きるのが仕事だという編集者がいる.誰もが純粋に才能の存在を信じていて,良いものを作るために最善の行動を取っているはずなのに,どうしてこの世はかくも残酷なのか,という.先日の炎上騒動に重ね合わせて,複雑な心境になってしまった.


「作家を愛し、作家とともに生きることが自分たちの仕事だと思います」

そんな夢物語を口にする。

俺はぼんやりと天井を仰いだ。

信念。これがこいつの信念なのか。笑ってしまうぐらいやっぱり甘っちょろくて――本当に笑い飛ばすには、なんだか俺の喉の力が足りない。